AEVE ENDING





「橘のこと、なにも知らないくせに」

悔しい。
その言葉は誰に対するものなのか。


「あの子がどれだけ頑張ってるか、知らないくせに」

荒い息を、痛む全てを。
諦めずに血を吐いても、陰口にも隔離にも、絶対俯かないで、前を向く、あの子の強さを。

手を出さなかった雲雀が、不意に倫子を薙ぎ倒した。


「…っ」

耳下の皮膚を思い切り突かれ、倫子は呻く。

「まだだよ。おいで」

雲雀がゆっくりと手招きする。
それに釣られるように、膝を着いていた倫子は再び体を起こした。


跳ねる。

まるで走るように。



「ねぇ、」

息を切らせながら、笑う。


「なに?」
「今日は夕飯、なに食べようか」


笑う、笑う。


「勝ってからにしなよ」


雲雀も笑う。
アミもゆかりも見たことがない、愉しげな笑顔だった。

「もう腹ペコ」
「空きっ腹で僕に傷を付けられたら、今日は終わりだよ」
「よっしゃ!」

また跳ねる。
まるで踊ってるみたいだ。


(―――楽しそう)


雲雀は倫子のそれを、また無表情に戻った顔で捌いては受けて捌いては受けている。

(…あぁ、まるで)




「雲雀くんで良かった」

アミがぽつりと呟いた。

先程まで沈んでいた横顔が、今はちょっとだけ笑っている。


「アミさん」
「ん?」
「橘さんは、大丈夫ですよ」

ゆかりがそう言えば、アミは目を丸くした。

「だって、神様がついてるじゃないですか」

まん丸だったアミの眼が更に丸くなって、くしゃりと笑った。

「アミさん、アミさん」

ご飯を、食べに行きましょう。
食堂には戻れないから、部屋の冷蔵庫に入ったチーズケーキでお茶をしましょう。


「覗き見なんて、趣味が悪いですよ」

だってあんなに愉しそうに、踊っているのだから。


「だから、」
「うん」

(私の眼に雲雀さんと橘さんは、まさしくベストパートナーとして映った。きっとアミさんにもそう見えていたんだと思う)

だってふたりは、まるでおんなじ生き物みたいに笑ってる。





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