AEVE ENDING
(雲雀、ねぇ、雲雀)
「…見せて」
結局、雲雀に傷は付けられなかった。
そう言うと、雲雀は当たり前でしょ、と倫子を殴る。
なんだかもう、こういう暴力には慣れた。
羽目を外しすぎた倫子は右腕から血が滴ることにも気付かず雲雀とやりあったらしく――いや、やり合えてないのだが――それに気付いて特訓にストップを掛けたのは雲雀だった。
部屋に連れ戻されて、右腕を捕まれる。
包帯を巻き直してくれるらしい。
倫子はシルクのベッドに腰掛けて、雲雀は床に膝を着く。
(───雲雀が私より下にいる…)
なんだか変な構図だ。
おかしいなぁ。
なんだか、優しすぎていやだ。
(だって、これじゃあまるで)
繊細な指が倫子の右腕を撫でていく。
傷を探るように、痕を辿るように。
―――慰めるように。
「馬鹿なこと考えてるね」
「…え!?」
俯いたまま雲雀が言う。
「そんなに変?僕が優しいと」
「…優しくしてる自覚があったんだ」
「生意気」
「いっ!」
優しかった指が腕に微かな痛みを残す。
そうして離れていく。
目一杯、伸ばさなきゃ、触れられない位置。
(…定位置、だ)
これでいい。
俯けば、腰を折る雲雀の長い長い睫毛が瞬いていた。
解いた包帯を手に立ち上がると、洗面所へと消えてしまう。
かつかつと響く革靴の足音は、不快ではなかった。
(…あーあ)
溜め息を吐く。
その吐いた息に吹き飛ばされるように、後ろへと倒れ込んだ。
まっさらな天井。
小さいが洒落た照明がゆるく室内を照らし、外はもう陽が落ちて夜を迎えているのだと気付かせる。
蛇口を捻る音。
手を洗っている。
··
随分と人間臭い神様だ。
考えると笑える。
カチャ、カチャ…。
雲雀が立てる物音が心地よかった。
意味深な雑音のように耳に滑り込んでは、細胞に染みていく。
───落ち着く。
『さぁて、倫子。雲雀くんをどうする』
パートナーを組まされた初日。
奥田はそう言った。
『解らない。私はまだ、』
───なにも知らない。
『知ってどうするの。殺すの?殴るの?泣くの?』
奥田はしつこい。
(…何より、私に雲雀は殺せない)