AEVE ENDING
『あいつはなにも知らないし、悪くない。…あいつを殺すのはお門違いだ』
これはきっと、建て前だけど。
割り切れないくせに。
『あいつがいたから、お前はこんなになったのに』
奥田の指が、倫子の心臓に触れた。
そこは研究時、科学者達に最も切りつけられた場所だ。
今も消えきらない痕が、臍に掛けて走っている。
『───あ、ぁぁ、…』
そうだね。
奪われたのは、確かだった。
───では奪ったのは?
「なにしてるの」
(…雲雀の声がする)
頭を抱えたくなるような美声にも傲慢っぷりにも慣れた。
───だってこんなに、心地良い。
「…橘?」
あ、瞼が開かない。
開けるタイミングを逃した。
(腕が痺れてる…)
後頭部に当たるシルクと室温調整機で調整された温度が優しい。
眠くなってきた。
(雲雀、怒るかな。殴る?)
ギ…。
横たわる左半身が浅く沈む。
雲雀だ。
「…寝たの?」
ギィ…。
ベッドがまた、軋む。沈む。
(怒らないかな…)
このまま寝かせてくれるなら、有り難いのに。
きっとそう甘くはないんだろうけど。
(……あ、暗い)
閉じた瞼の下からでもわかる。
雲雀が覗き込んでいるのか。
(…見るなよ。上向いた寝顔なんて、不細工な顔してるに決まってるのに)
───雲雀の頭が落としているだろう、陰。
暗闇とは違う心地良い仄暗さが、更に倫子を眠気へと誘う。
(私を殺すかもしれない男の傍で)
安堵感が襲う。
不必要な感情だ。
(これは、要らない)
閉じた瞼に、雲雀の気配が降りかかる。
なにを考えているのか、なにをしようとしているのか、予期するには相手が未知数すぎた。