AEVE ENDING
(───神様に赦しを乞う哀れな女を、あんたは)
とくとくと心臓を打つ血液が耳につく。
この心臓は、雲雀によって生かされた核だ。
(あぁ、…雲雀は、神様じゃない)
それこそ信仰者は五万といるけれど。
『───僕は、神じゃない』
(その言葉にどれほど救われたか、)
瞼を上げた。
薄闇から色移る白い天井と、深い漆。
思いの外───吐息の終点が交わるほど近くにある端正な顔に、気付かれないように息を飲む。
目を開けたことに、雲雀は驚いた様子もない。
地中深くの静謐を思わせる、冷たく強い、逞しい眼。
それを彩る睫毛が不規則に揺れては、眼下の倫子を見下ろしていた。
(―――くらくらする)
血が足りないからじゃ、ない。
無言のまま互いの腹を探り合うように、数分。
雲雀の透くような肌に、目眩が。
「…ねぇ」
そろそろ頭に血が昇ってきたので―――教会に描かれたマリア様のように美しい顔を間近に見ているせいだ。
慈悲深さは比べ物にならないが。
「離れてよ。眠くなってきた…」
上体を起こそうにも、雲雀の体が隙間なく真上にあるため動けやしない。
「どいて」
倫子の言葉に、必要以上に長い睫毛がぱちりと瞬いた。
少し弧を描いたそれに見下され、いたたまれない。
(───こいつはいつも、全て見透かすような眼で私を射殺そうとする)
「ねぇ…、橘」
喉に絡み付くような甘い声。
片腕だけで体を支え、空いた左指がするりと倫子の包帯を撫でた。
「…、」
小さく爪を立てられて、ぞわり、全身が粟肌立つ。
「───この腕の傷は、なんなの?橘」
抉る為に傷はあるのだと、彼は嗤う。
まっさらなあんたはわたしのみにくいばしょをつついてさそってろけんさせるきだ。
「知らない」
だから、声は震えない。
「そうなの?」
雲雀はくつりと嗤うと、倫子の右腕を掴んだ。
「、ぅぁ」
じくりと雲雀の掌に圧迫された血が鳴る。
雲雀は乱暴に――これでも手加減してるのだろうが――右腕を引き上げると、手綱を引くように倫子へ馬乗りになった。
ずしりと腹部にかかる、硬い重圧は男のもの。
───喰われちゃえばいいんだ。
そして、ひとつになれたらいい。
世の喧騒も身の色も、そして贖罪もなにもかも、雲雀の奥底で傍観していたい。