AEVE ENDING





「……もう嫌だ。離して、どいて、もうなにも言わないで」

目を逸らす。
なにかを堪えるように息を震わせて、雲雀から逃げようとする。



「…いやだ、あんたなんか、」


───欲しくなかった。

こんな醜い体も、痛みしか残らない記憶も、この胸の奥で一点だけ唯一私を慰める温かい塊も、その強い力も、言葉も心も。


「あんたなんか、要らない…」

いやだ。

私はもう、この場所に居たくない。



『───あの子の代わりに、見窄らしい少女を』

『───似ても似つかないのに、その眼だけは同じだと仰せつかったのだよ』


(そんなもの、望んで、ない)




「あんたには関係ない…!だから、…っ」

もう放っておいて、そっとしていて、あんたの傍は。


「…っ、」

───いたい。

捻りあげられた腕と、掴まれた顎のラインがきしりと鳴いた。
無理矢理上向かされて、雲雀の睫毛が倫子の頬を掠める。

「…酷いことを、言うね」

耳元で囁かれた声は低く虚しく、冷たい。

ぞっと鳥肌が立ち、顔を逸らそうにも逸らせない。
拘束する力から手加減が消えて、倫子を殺そうとする。


「───…っ、」

浅い呼気が肌を撫でていった。

肌が焼ける。

さわるな。



「っ、い、」

右腕をシルクに抑えつけられ、その痛みに全身の力が抜けていく。

無力だ。

こわい。



「っ」

その瞬間、息が詰まる圧迫感。
喉仏の軟骨を思い切り押さえつけられて、細い指が、首を絞め付ける。


(、な…)

ぐつりと右腕が鳴いた。

血が滲んでいる。
胎内から、残酷な音を立てて血が抜けていく。

小さな隙間もない、絞められた気管は鳴くことも許されない。

薄目で覗いた真上の顔はやはり綺麗であまりにも顕(あらわ)で、泣きたくなるほど、冷たい嘲笑。

ひくりと喉が鳴いた。



「───ねぇ、橘…」


甘い声がする。

甘い甘い、甘ったるい花のような香りの、声。



「殺しても、いい?」


そうして嗤うのだ。

虫螻の私をいたぶって、そして動けなくさせる。





< 424 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop