AEVE ENDING
「武藤」
夕食を終えた頃、シュークリーム片手に自室で寛いでいた武藤に、朝比奈が声を掛けてきた。
倫子と組み手をして以来、朝比奈は武藤によそよそしく接している。
(ビビってるわけじゃねぇんだよなぁ。そうじゃなくて…、)
理由はなんとなく見当はつくが、いい加減パートナーに冷たくされると絡みづらい。
いい加減手を打つか、と思っていた矢先だった。
「お話がありますの」
武藤が腰掛けるソファの向かいにゆっくりと腰掛ける。
気性は荒いが、さすが名家の娘。普段の所作に、マナーと気品がある。
自分から話を進言した朝比奈は、しかし俯いたまま口を開こうとしない。
この角度からよく見える柔らかな瞼の曲線が、静かに床に向けられていた。
「…床を見るより俺を見ろよ。話があるんだろ」
促してやれば、朝比奈は意を決したように顔を上げた。
真っ直ぐな、眼。
「…先ずはじめに、今から私が言うことは大変私事に偏ったことで、本来ならば私が口出しする問題ではないということを覚えておいて下さい」
まだるっこしい前置きを付ける。
そんな朝比奈と目を合わせながら、武藤はシュークリームを一口分、口に放り込んだ。
それを見た朝比奈が、ムッ眉を寄せる。
あ、やべ。
「人と話す時に食事はおやめなさい」
「…わり。早く食い終わった方がいいかと思って」
やる気のない武藤の謝罪に、こほんと小さく息を吐く。
全体的に色素の薄い容貌が、武藤を真摯に見ていた。
「…組み手のことですわ」
(ほらやっぱり、アタリ)
「あれは確かに授業の一環であり、教官監視のもとで行われた正式な組み手の授業です。───でも」
朝比奈はこう見えて面倒見がいい。
西部箱舟の代表として、いつも生徒達を気遣い、または助けてやっている―――お節介とも言うが、朝比奈に悪い噂はない。
朝比奈雛の恩恵を受ける者───例え、自らが嫌う者であろうが与えられるものは平等だ。