AEVE ENDING
「橘倫子、ね」
武藤の先走った補足に、朝比奈が小さく頷く。
真正面、眼を見たまま。
「必要以上の手出しはおやめなさい。落ちこぼれとはいえ、橘倫子はアダムです。我が西部のアダムを傷付ける者は、私が赦しません」
真摯な、眼で。
「…恋敵だぞ」
「関係ありませんわ。彼女は雲雀様の、ただのパートナーですもの」
自分に言い聞かせる気か?
やめろよ、痛々しい。
「ただの?…ただのパートナーを、雲雀がそう構うかよ」
口許に湧く笑みは自覚がある。
それは、朝比奈を怯えさせるものだろう。
「……雲雀様は、情けを掛けているだけですわ」
細い声が、震える。
(知ってる)
お前が、雲雀にどれだけ惹かれているか。
(知ってた、ずっと)
「…見てきたから」
そうだ、ずっと見てきたのに。
「見てきたから、わかるだろ」
雲雀は明らかに、あの橘倫子という人物に目を掛けてる。
それが好奇心なのか愛なのか判断はつきかねるがしかし、彼は。
「…やめなさい」
震えている。
こんなにも細い肩で、ずっと見てきた。
見返りもなにも望まないでひたすらに、偉大なる神にひれ伏す、彼女が。
(…苛つく)
お前の想いは、神には届かない。
わかりきっているのに。
「いい加減にやめろよ、…見てるこっちがキツい」
その見ていられなくて、その真っ直ぐさから目を逸らした。
カシャン…ッ。
「…っ、」
朝比奈が立ち上がった拍子に、テーブルに置かれたカップが床に落ちる。
憤慨したような、悔しそうな、悲しむような、痛む表情で。
「…伝えても伝わらない。あいつはお前とは違いすぎる。あいつの眼に、お前は映らねーよ」
細い拳が、ぎゅうと握られた。
俯いた唇は、亀裂が入りそうなほど噛み締められている。
「やめなさい…!」
やめられるか。
いい加減、見たくもねぇんだよ。
「お前の器じゃ、あいつは飼い慣らせない。だから、やめろ」
こんな馬鹿げた言葉を吐いてどうなる。馬鹿馬鹿しい。
これはただの。
「―――…やめて!」
叫ぶ。
武藤が知る限り、朝比奈がこんな風に叫ぶのは初めてだった。