AEVE ENDING
そんな倫子を横目で見やると、雲雀はその形の良い唇を再び持ち上げた。
「まぁ、見てて」
掲げられていた手が指一本一本の動きを意識するかのように人差し指から順に握られる。
まるで力づくでじわじわと手中の空気を握り潰すようにゆっくりと。
五指の関節に、相応の力を込めて、握る。
ゴゴ…。
それに合わせて激しさを増した地響きに足をとられ、バランスを崩した倫子が片足を砂に着いた。
所詮、実験でアダムの能力を手にしただけの人間の体。
能力差から生じる摩擦が頭痛を引き起こし、顔が歪む。
(…こんな近距離でこんな力を使われたら、)
なにをする気か知らないが、勘弁してくれ―――。
倫子がキリキリとした痛みのなか絶望した瞬間、数キロ先の海面に異変があった。
水平線の一部がざわりと波立ったかと思うと、その波は激しさを増す。
やがて波に沿ってぽっかりと口を開けた海面から、ぐつりと嫌な音を立てて謎の物体が顔を覗かせた。
雲雀の手の先、海水を吐き出しながら、長く海中に沈んでいたであろう陰影の───それ。
「…っ、」
がぽりと海面に浮かんだその物体───巨大な軍艦の姿に、倫子を含むその場にいた全員が息を飲んだ。
明らかに戦時中の代物のそれは、海中でどれだけの間、息を潜めていたのか―――。
遠目にも歪に光る巨体は、あちこちを海水に侵食され骨組みすら露になっていた。
まるで海に横たわる骸だ。
ところどころに残る塗装や鉄板が肉を思わせ、酷く不気味だった。
「なに、…あれ」
倫子が呆然と呟けば、灰褐色のその姿がゆるやかに崩れ始めた。
それは急激に水分を奪われてゆく人間のように、さらさらと脆い部分から砂になってゆく。
微粒子になって風に流れてゆく畏怖の産物は、雲雀の白魚のような指によって空気に融けていった。
(物質破壊…成分分解、か)
未だ爆発する可能性すらあるであろう不発弾を腹に抱え込んだそれを、雲雀は涼しげな顔でただの粒子へと還していく。