AEVE ENDING
「…それでも、保険は必要ですわ」
その美しい唇を噛み締める白い歯に苦笑する。
「そう言うと思っていたよ」
だからこそ、手は打ってある。
「―――明日未明、中国からアダムの留学生が来日してくる。随分と優秀なアダムらしくてね、あちらの箱舟連盟が是非、修羅と切磋琢磨させたいとご所望だ」
その言葉は事務的ではあったが、怒り心頭の彼女を抑えるには充分であった。
「国の大事な外交だ。彼女を雲雀くんのパートナーから引き剥がすのに、さして問題はない」
薄い口角を釣り上げた夫の微笑は、かの息子には似ても似つかない。
彼は息子に似ていない。
「…彼女に生きていてもらっては困りますわ」
幾分か落ち着いた女は、疲労しきったようにソファに深く腰掛けた。
「───けれど処分するわけにもいかない。彼女は偶発的に発生した、人類の希望だからね」
国の監視役が四六時中、彼女を見ている。
なにせ彼女は、人類にして初のサイコキネシス保有者なのだから。
「アダムでもなく、人間でもない。かような半端な生き物と雲雀さんが同じ空間で過ごしていることすら、不愉快なのです」
「…だからこそ、少しばかり工夫を凝らしてみなければ」
穏やかな微笑を浮かべた夫の、その企みに気付いた妻も同様に笑みを浮かべる。
それはまるで天女のように穢れなく、まるで造り物のように、熱がない。
「確か、闇組織というものが彼女を欲しがっていましたわね」
「このあたりで手助けでもしてやろう。我々人類にとって、彼女はさして重要でもない」
そうだ。
神の力を秘めた脆いだけの娘など必要ない。
麗しく甘美な、本物の神さえいれば、世界は安寧に導かれるのだ。
「彼女には、名誉の死を以て償っていただこう」
───せめて最期は、アダムらしく。