AEVE ENDING







目の前に置かれた二対のティーカップ。

大理石の床に反射する薔薇の絵が美しい陶器のそれは、平民には手が届かない高級品だ。

「割らずに浮かせてごらん」

それを指差すのは、雲雀の綺麗な指。
美しいものに囲まれて、倫子はいま、最大の集中力を求められていた。



―――遡ること、一時間前。

海洋清掃で一番役に立たなかった生徒―――結果的に、やはり倫子が奥田発案の罰ゲームを受けることになったのだが。

『みっちゃんにとってなにが一番キツいって、雲雀くんのスパルタだと思うわけ』

という経緯で、現在倫子は自室にて絶賛スパルタ特訓中、サポートバイ、雲雀。


「割っても構わないけど、割ったらお仕置きが待ってるよ」
「それは果たして割っても構わないというんでしょうか、先生」
「口答えはもっと赦さない」
「…っ、いってー」

ティーカップを前に正座する倫子の頭を殴り付ける雲雀…否、先生は、奥田に押しつけられたにしては爽やかに倫子をいたぶっていた。

(…あ、だからか)

集中。

集中。

しゅうちゅう…。


静止していたティーカップがカタリと小さく揺れる。

ぐらぐらと針が振れるように振動するその陶器に、倫子は意識を注ぎ込むように唇を噛み締めた。

カタカタと小さな音が静かな室内に響く。

雲雀といえば、監督さながらにソファに腰掛け、それを眺めていた。

その背後からの視線が、痛い。

(…いやとにかく、今は目の前のティーカップに集中しろ、倫子)

集中は苦手だ。
しようとすればするだけ、意識は様々なものへと霧散して、集中できない。

(…物体の重力操作は、先ずその物体に照準を合わせて、そしてそれ以外を完全にシャットアウトする。そして標的が浮遊するイメージを能力に乗せて………)



「む、」

集中、集中、しゅ…。

(あ、)



パリンッ。


―――割れた。

無惨にも真ん中から真っ二つに割れた片方のカップに、倫子は脱力する。

慣れない操作に全身の疲労が激しい。

疲れた。





< 477 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop