AEVE ENDING
「う、あーあー…」
視界に入る、割れた美しいティーカップが虚しい。
(…できそうだったのになぁ)
「力みすぎ。もう少し力を抜いてみたら」
後ろから助言。
まさかいただけるとは思わなんだ。
倫子が目を丸くして振り返るなら、雲雀はなおも続けた。
「力はあるのに、それがうまく作用していない」
使い分けが下手すぎる。
アダムとして覚醒した者なら、本能的に身につけている筈の能力の振り分け方が、まるでできていない。
(―――元々、ただの人間なんだから当然か)
あぁでも、そうじゃなくて。
「…脅えているの?」
その体が、無茶な能力の排出で崩れていってしまうことを。
「…脅えてなんかないよ」
(ただ慣れない。いまだに)
この心臓の真下で息づくもうひとつの核。
アダムを意識した時、必ず振動するこの熱は、雲雀のものだ。
(心臓の奥。肉にまみれた、ずっとずっと、奥のほうに)
雲雀が在るのだ。
正確には、雲雀の力が。
(…罪の塊)
このことを知ったら、あんたはどうするだろう。
「───雲雀」
呼ぶ。
あの時、おおよそ考えもしなかった。
この名前を、悪意なく殺意なく、口にするなんて。
「なに?」
呼べば、返ってくる。
夢の中の住人のような、曖昧な存在が。
(それだけが、こんなに痛くて)
「手を」
腕を伸ばす。
負傷したほうの、無様な手。
筋肉を使えば、とくとくと血流が感じられた。
「手?」
訝しみながら、それでもこの醜い手をとってくれる。
触れた指先は氷みたいに冷たいのに、今はそれが、甘くて。
(それだけが、こんなに辛くて、嬉しい)
いざ触れれば、無意識に強ばるこの罪深い体に、あんたは目もくれない。
それでいいんだ、きっと。