AEVE ENDING
―――ガラ…。
危うく積み重なっていた瓦礫が、バランスを崩して瓦解した。
「…っ、助け、」
瓦礫の山になり果てた室内に、小さな小さな声が響いている。
それは未だそこにいる「なにか」に脅えながらも、一握の希望に縋るような。
「た、…けて」
その声を片耳に受けながら、建物の一部であったことすら窺わせない瓦礫と化した空間に、浮かび上がる真っ白な色。
壁に大きく空いた、寧ろ壁の原型を止めていない外へと通じる穴の端に、海を眺めるように佇む。
ぱたり、
…ぱた、た。
その影の腰から滴る血が、惨めな音を立てて足元の白壁の名残を染めていた。
「たすけ、」
救済を、求めている。
先程まで気配でしか感じなかった声が、今はリアルに肉声となって。
───だが、それらは今の倫子の興味をそそらない。
瓦礫に押し潰されたヒトの体が見えた。
血を流している。
怪我をしている。
助けなきゃいけない―――けれど。
(これを、私がしたのか……)
うちから湧き出す許容量を超えた熱に、目眩がする。
意識が、深い暗闇の淵へと沈みこんでいた。
まるで自分の体ではないように、全身に緩やかな血脈が巡っている。
(化け物には、ならない)
もう二度と。
(誓ったのに)
それなのに、このざまはなんだ。
化け物の姿にはならなくとも、呆気なく吹き飛んだ気配にほくそ笑んでいる、この劣悪な精神は。
懇願を耳にしているのに、動けないでいる体は。
強烈ななにかが、私という自我を抑え込んでいる。
───これは。
(雲雀…?)
先の爆発で立ち上る煙に肌を撫でられながら、思うのは。
呼び掛けか、求心か、願いか。
ぞわぞわと脚の爪先から湧き上がる、まるで嫌悪に満ちた、血の流れ。
(…流れていけばいいのに)
この血液も細胞も全て、あの男のものだ。
『橘』
思い起こしただけで、蘇るのに。
『…橘』
幻聴でさえ、胸を熱くするのに。
海から吹き荒れる冷たい風が、じわりと肌を撫でていく。