AEVE ENDING




(指、冷たい…)

素っ裸で外気に曝されている私より、ずっと。

しゃがみ込む黒い頭がちりちりと痛む傷とかち合う。


「刃物?」
「うん」
「痛む?」
「そりゃ、ね…」

―――痛むよ。
その傷より、ずっと痛む場所があるけれど。

(…雲雀の匂いがしないや)

近付いてもない。
どこにも、見当たらない。


(…、ばかスズメ)

───あぁ、こんな下らないことがこんなにも、この弱虫な心臓を喰い散らしてゆく。


「いっ、」

ず、と傷を撫でられた。
瞬間、全身に走る痛みに身を引くが、強く掴まれた腕に阻まれる。
なにをするのかと鍾鬼を見れば、真下から見上げてくる、緩やかな黒の視線。

(…息が詰まる)

なにかを、抑制するような強い眼孔に。



「タチバナ」

鍾鬼が口を開く。
まるで人形のように細いその肩が目に入って、そしてその肩に繋がる首が倫子を見上げる為に反らされていた。

「───可哀想なタチバナ…」

唇から紡がれる声は憐れみ。

「…、」

その眼に、浮かぶのは。

鍾鬼の長い舌が傷に触れる。
慰めているのかなぶっているのか、どちらともつかない優しさで。

ざらつく舌の感触に、鳥肌が立った。


「…やめて」
「どうして?」
「やめてよ」

ちろりと覗く舌が赤くて赤くて、それが流れ出る血液を纏っていることを倫子へと知らしめる。

(気持ち悪い)



「…触る、な」

今や拘束されていると言っても過言ではない腕を引くが、力の暴走を引き起こしたことが原因か、全く筋肉が使い物にならないでいた。

「、」

鍾鬼が顔を上げる。
長く揃えられた前髪に隠れていた、冷酷な双眸に宿るのは。



「可哀想な、タチバナ…」


───蔑み。



「失敗作品なんかじゃない、れっきとした完成品なのに」

拙い日本語を語る筈のそれが、躊躇いなく紡ぐもの。


「…憐れなタチバナ。お前は監視されてたんじゃない。放し飼いされていただけ」

ぐ、と脚のバネを使うように鍾鬼が立ち上がる。


───鍾鬼?



「…、」

誰だ、こいつ。

混乱する倫子を前に、口角を釣り上げる男は確かに先程まで片言を口にしていた人物だ。



「しょ、う」


これは、誰?






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