AEVE ENDING
「修羅の力を人工的に植え付けられた化け物から、人に輪廻した、雌の人間」
くつりと嗤った男に、目の前が真っ暗になった。
ぐらぐらと煮えたぎるような血潮が心臓から湧き上がってくる。
符号が一致しない。
「…そう教えられた。橘」
大切な母国を離れたのは、誰のためだったと思う?
───神の言いなりとなれ、従者よ奴隷よ人間よ。
そうすればお前は恩恵を受ける資格を手にすることが出来る。
「俺がまだ母国の箱舟にいた頃、…さる人物から話を持ちかけられた」
鍾鬼の指が痛いほど頬に喰い込んでいる。
不穏な空気に、吐き気がした。
「どんな話だったと思う?」
首を傾げた鍾鬼の目が、気味が悪いほど、冷たい。
脚先に痺れるような冷気が触れ、全身から力が抜けてゆく。
答えは求めていない、と口を開かずにいれば、目の前の男は至極満足そうに口を歪めて見せた。
「───アダムが頂点に立つ世界。愚かな人間を足蹴に、高尚なアダムが天に座す世界」
最高だろう?
にぃまりと嗤った顔は、やはり似ていた。
「…、」
そのまま頬に触れていた指が首に移動し、ぐるりと首輪を作るように回される。
長い指は躊躇なく、倫子の首を隙間なく覆った。
「今の世はあまりにも醜悪で愚鈍で、存在する意義すらない。───何故か、解るか?」
くいと親指に力を入れられる。
話せ、と無言で強要してくる指圧に、倫子は酷く嫌な気分になった。
それを隠さず眉を寄せて、馬鹿にするように目を細めるが、鍾鬼はそれを気にした様子もなく、倫子の言葉をただ待っていた。
(典型的な人間亜種…、先天的アダムだな)
アダムがなによりも至上であると考える、自らの肉親ですら、下等な人間だと蔑ろにする。
「人間が嫌いなだけでしょう、あんたらは」
産まれながらに、その身に宿す人外の力を。
(例え人生半ばまで人間として生きたアダムでさえ、)
遺伝子に組み込まれた傲慢にひれ伏すのだ。