AEVE ENDING





「修羅の力を人工的に植え付けられた化け物から、人に輪廻した、雌の人間」

くつりと嗤った男に、目の前が真っ暗になった。

ぐらぐらと煮えたぎるような血潮が心臓から湧き上がってくる。

符号が一致しない。



「…そう教えられた。橘」

大切な母国を離れたのは、誰のためだったと思う?



───神の言いなりとなれ、従者よ奴隷よ人間よ。

そうすればお前は恩恵を受ける資格を手にすることが出来る。




「俺がまだ母国の箱舟にいた頃、…さる人物から話を持ちかけられた」

鍾鬼の指が痛いほど頬に喰い込んでいる。
不穏な空気に、吐き気がした。

「どんな話だったと思う?」

首を傾げた鍾鬼の目が、気味が悪いほど、冷たい。
脚先に痺れるような冷気が触れ、全身から力が抜けてゆく。

答えは求めていない、と口を開かずにいれば、目の前の男は至極満足そうに口を歪めて見せた。

「───アダムが頂点に立つ世界。愚かな人間を足蹴に、高尚なアダムが天に座す世界」

最高だろう?

にぃまりと嗤った顔は、やはり似ていた。

「…、」

そのまま頬に触れていた指が首に移動し、ぐるりと首輪を作るように回される。
長い指は躊躇なく、倫子の首を隙間なく覆った。


「今の世はあまりにも醜悪で愚鈍で、存在する意義すらない。───何故か、解るか?」

くいと親指に力を入れられる。
話せ、と無言で強要してくる指圧に、倫子は酷く嫌な気分になった。

それを隠さず眉を寄せて、馬鹿にするように目を細めるが、鍾鬼はそれを気にした様子もなく、倫子の言葉をただ待っていた。

(典型的な人間亜種…、先天的アダムだな)

アダムがなによりも至上であると考える、自らの肉親ですら、下等な人間だと蔑ろにする。



「人間が嫌いなだけでしょう、あんたらは」

産まれながらに、その身に宿す人外の力を。

(例え人生半ばまで人間として生きたアダムでさえ、)

遺伝子に組み込まれた傲慢にひれ伏すのだ。





< 546 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop