AEVE ENDING
他人の血に濡れたこの手は、幾度洗い流そうが綺麗にはならないのだ。
(それで構わないと、諦めていたのに)
今更になって、泣きたくなるほど、それが、辛い。
(…あんたのせいだ)
あの真っ白な生き物に、私は無様にも焦がれた。
(…雲雀)
あいたい。
(わたし、)
あんたに言いたいことが、ある。
海岸沿いに要塞のように建つ西部箱舟とは違い、東部箱舟は街中、しかも都心の郊内に建っていた。
西部と東部の間には一本の河が流れており、ふたつを繋げるのはたった一本の橋。
辺鄙な荒野が続く西部側から橋を渡れば、一変して景色が変わる。
バイオ研究により汚染された土でも発育する植物が街路樹として所狭しと植えられ、緑との調和を謳う都心らしく、煉瓦調の建築物が並ぶ、西欧風の街並み。
完璧な上下水道設備に、住民たちの為の憩いの場まである。
この日本という国が、最もまともに機能している場所である。
この街だけ見れば、一度終焉を迎えた国だとは先ず思わない。
しかし郊外、或いは県外に出れば、閑散とした荒野が広がり、枯れ果てた木々が屍のように転がる。
───勿論、人の屍もそれこそ、土地の一部であったように。
戦後すぐ、天皇制度は廃止され、この国のトップに立つのは政界の重鎮たちだ。
悪化の途を辿る格差社会の象徴が、この緑豊かな街なのである。
戦前、それなりの地位に就いていた者や、莫大な富を築き上げていた者、荒廃した国の復旧に尽力した学者など、月に一度発行される住民権をそれこそ法外な額で購入しなければ、即追放を命じられる街。
どれほど美しくても、安寧の地ではないのは確かだ。