駆け抜けた少女【完】

「分かってますよ? 逃がすわけがないでしょう。 ねぇ、人斬り以蔵さん」


スーッと鞘から抜き出た刃、沖田は白い歯を見せ微笑んでいる。


注意をしていたはずが、話に夢中になっている間に囲まれていた。

己の不覚にギリッと食いしばる以蔵は、既に勝ち目はない。


「堂々と橋の真ん中で逢瀬とはやってくれるねぇ」

「すみませんけど、私もあまり機嫌がよくないので覚悟して下さいね?」

「……クッ……」


止めてよ。

お願いだから、止めて。

また自分のせいで、目の前の人を傷付けることになるのか。


一番隊と二番隊の組長、そして二人が連れている隊士数名。

隊士達は手こそ出さずにいるが、この状況では明らかに逃げることは不可能。


しかし以蔵は、必死に右から左から襲いかかる刃を受け止め流し抵抗する。


その間に、腕や足を数カ所斬られながらも、時折矢央に視線を向けている。


『もし新選組と出会したら、以蔵を逃がしてやってくれ』


矢央の脳裏に坂本の言葉が過ぎった。


こんなにも早く、そのもしもの時が訪れようとは。

しかしこれは、矢央も悪かったと思った。

思ったが、それも後の祭りだ。

目の前で既に始まってしまった斬り合いを止めなければならないと、矢央は何か手立てを探る。


「ぐわあっ! 貴様等っ、卑怯とは思わんがかっ! 武士なら一対一で勝負するぜよっ!」


沖田の突きに左腕をやられた以蔵は、片手で構えると吠えた。


「卑怯? 人斬りがよく言うよ。これが俺ら新選組のやり方だ。 勝ちゃいいんだよっ!」

「刃を抜いた限りは、背を抜けず戦い抜く。 ただそれだけですよ。 それがどのような状況でもね」


クスクスと笑う沖田と、顎を突き上げ睨む永倉。


此処で捕まるわけにはいかんぜよっ! 龍馬……武市さんっ!


「さぁ、観念しなさいっ!」


沖田から笑みが消え、白刃が以蔵の肩を目掛け放たれた刹那―――


――――カキィンッ!



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