短編集『固茹玉子』
「こっちだ、銃声がしたぞ!」

「あそこに入って行った。殺せ!」

殺気立った追っ手の声が、もうほんの近く迄迫って来ている。俺はコンロに駆け寄り、そして食堂に程近い物陰に潜んだ。

「もうお前は袋のネズミだ。最期ぐらい潔く出てきたらどうだ?」

冗談じゃない。出て行ったところで蜂の巣にされるのがオチだ。俺は傍らに有ったホールトマトの空き缶を、通用口目掛けて放り投げた。


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