金魚玉の壊しかた
あんなによく晴れていた空は、午後になるとにわかに曇ってシトシトと梅雨の陰鬱な雨が表の道を濡らし始めた。

そんな空模様そのままに、
長屋に戻った途端に、虹庵の前では辛うじて持ちこたえていた私の涙腺は決壊して、私は薄暗い室内で一人で泣いた。


泣きながら、

虹庵の求婚を断った理由を何度も何度も、なぞるように確認した。


武家の婚姻は家と家のもの。

養子縁組で、虹庵が結城家からうちに来るのであればともかく、
既に結城家を出てしまっている彼に私が嫁いだのでは、雨宮の家は救えない。

借金に関しては、恥も外聞も捨てて彼の実家である結城家に頼ることも──あるいはできるのかもしれないが──

失った雨宮の栄光を取り戻すには、先法御三家や政治の実権を握る家老連綿家の当主の正妻か、もはや有り得ないだろうが藩主直々の側室か……
せめて当主が中老の役職を務めた着座家に嫁がなければ難しいだろう。

だから、御用医ですらなく町医者の身分で人々に尽くしている虹庵では駄目なのだ。


それは正しい理屈だった。


それなのに──


もしも、遊水に同じ言葉をかけられたとしたら、私は受けたと言うのか。

彼が同様に、ただ家の借金を何とかできるだけの身分であったとしても──家族を説得して、彼のもとに喜んで嫁いだと言うのかと──そう思って

己の都合の良さにほとほと嫌気が差した。


結局、家のためだと卑怯な理由を持ち出しただけで、
私の心が虹庵にはなかったというだけだったのではないか。

それを──


虹庵に見抜かれていた。
彼は見抜いて、傷ついた。


私はたまらない気分になって、頬を伝い落ちていく涙を止めることができなかった。
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