金魚玉の壊しかた
「ひょっとして──遊水と何かあったのか?」

何も知らない円士郎は、当然のようにそう言って、

私は首を横に振った。

「……虹庵先生が……」

「虹庵先生? 先生がどうした?」

何か勘違いして飛び出していこうとする円士郎の袖を、私はつかんで止めた。

「馬鹿だな……私は」

「え……?」

「お前は正しかったよ、円士郎殿……」

虹庵についての会話の中で、以前私に放った言葉を忘れてしまっているのか、

びいどろに満たされた水の中にいるようにぼやけた世界で円士郎がキョトンとする。


その様は救いのようで

私はどうしてこの若者に会いたかったのかよくわかった。

「円士郎殿は──本当にどうしていつも……」

私は微笑んだ。

「……突然現れるのだ?」

周りを無視した彼の行動は、周囲に流されない彼だけのペースを作っていて、
しかし根底には他人への思いやりや優しさが存在していて、

それは力強くどこまでも前向きな安定感があって、こちらの悩みなどかき消されそうな気分にしてくれる。

「どうして、こんな時に限って……現れるのだ、お前は──」

よりによって、私が会いたいと思っているこんなタイミングで、こんな風に救いのように出現されたら──

「どうして……」

弱さをさらして、すがりついてしまいたくなるじゃないか。

そんなことを思っていたら、

「悪い、鳥英」

円士郎が短く謝って、


突然私を引き寄せ抱き締めてきた。
< 117 / 250 >

この作品をシェア

pagetop