金魚玉の壊しかた
円士郎はそんな私を泣くがままにしてくれて、


「遊水は──あんたの素性を知ってるのか?」


やがて、そう尋ねた。


「……いいや。私は彼のことを知らないし、彼も私のことを知らない」


彼の行動を散々見てくれば、嫌でもわかる。

遊水には何か口にできぬような素性があるのだろう。

私が素性を明かさなければ、彼もまた自分の素性を明かす必要には駆られない。何の負い目もなく、我々は対等な立場でいられる。

しかしもしも、遊水に私の素性を告げてしまえば、素性を明かせぬ彼は私の前から消えてしまうのではないか。


だから……今は彼に自分の素性を打ち明けるのが怖い。

虹庵や円士郎とは違って、
びいどろの世界が壊れた瞬間、遊水はいなくなってしまう気がした。


私がそう告げると円士郎は、そのほうが互いのためかもしれないと言った。

私は反論しようとして、


確かに円士郎の言うとおりのような気もした。


「はあ……いっそ忘れられたら、楽なのにな」


ため息と一緒にそんな言葉を漏らしたら、




「俺が忘れさせてやろうか」




円士郎がそんなことを言い出して、私の胸は大きく音を立てた。
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