金魚玉の壊しかた
冗談が半分、本気が半分、だった。



しばし

雨が、
長屋の瓦を叩く音と
戸口の外で大地にはねる音とを聞いて


見開かれている双眸に微笑んで、


「やっぱり、気づいていなかったのだな」


私は、冗談だとは口にしなかった。

軽々しく女を口説こうとした仕返しだ、と思った。
教えてやるものか。


「鳥英……あんた──」

本気でうろたえている円士郎を見るのは、
少しだけ胸のすく思いがして
少しだけ胸がズキンとした。

「無理もない。私も今、自分の気持ちに気がついた」


これは本当だ。


とん、と円士郎の胸に額を押し当てる。


「馬鹿だな。遊水に夢中になりすぎて……自分でも気づかなかったよ」


彼は全てを持っている。

私と、雨宮家が欲しいもの全てを。


彼と私は身分も合う。
彼は武家の嫡男だ。
それも雨宮を凌ぎ、この国では藩主に次ぐ家の次期当主だ。
彼に嫁げば、雨宮家は救われる。


だからこそ──

ただの、都合の良い幻想の相手だと思った。
思い込んだ。


けれど、


円士郎と話すのは楽しい。
円士郎のことを話すのも楽しい。

遊水に対するものよりずっと淡いけれど

それでも、

強烈な閃光のように眩しい彼に惹かれたこの思いもまた──


「円士郎殿に惹かれる気持ちもまた──恋だったのだな」


ようやく、自分の心を理解できた。
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