金魚玉の壊しかた
「泉家との縁談を蹴って、それを受けよと!?」


兄が激昂した。


「正気ですか叔父上ッ!?」

「何の不服がある」


叔父は淡々と語った。


「伊羽青文殿は今年で二十五。亜鳥とは年も近く、これまで妻も娶られてはおらんから後妻ということもない。

しかも伊羽家は家老首座連綿。雨宮家よりも家格も上だし、何より今や家中を取り仕切っておられるのは伊羽殿と言っても過言ではない。

政治の実権を握っておられる方だ。没落した雨宮の再興のためにこれ程の良縁はなかろう」


「馬鹿なッ!」


バン、と兄が畳を殴りつけた。


「雨宮の没落の因となった男こそ、伊羽青文であることをお忘れかッ! きやつめは亡き我が父が最後まで恨んで死んでいった憎き我らの政敵ではありませんかッ」

「そのお父上のおかげでお家取り潰しになる所を救って下さったのもまた、伊羽殿であろうが。
そもそも真偽はどうであれ、お父上が伊羽殿を暗殺しようとした張本人との疑いを受けたのだ。本を正せば向こうは被害者。
かつてご自身の命を狙った政敵の娘である亜鳥を妻に迎えたいなどと、寛大なお心と──」

「ありがたがれとでも言うのですかッ」


睨み合う兄と叔父の横で、母がさめざめと泣き始めた。


「伊羽青文と言えば、常に城中でも不気味な覆面頭巾で面を覆い、家中では誰もその顔を見た者すらおらず、聞くところによればその顔面はそれはそれは恐ろしく崩れているとの話ではないですか。

それに、執政としての手腕はともかく、これまで妻も娶らず、内に外に大勢の妾を囲って女遊びに興じている色狂いとの噂。
亜鳥のこととて、にわかに縁組みが持ち上がったために、器量の良い娘との噂を聞きつけたからに相異ありません」


亜鳥にとっては亡き父の敵でもあるそのような男のもとに亜鳥を嫁がせよと申すのですか、あまりに不憫ですと宣って、母上はその場に泣き崩れた。


叔父は困ったようにそんな母と私とを見比べて、何やら猫なで声になった。
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