金魚玉の壊しかた
伊羽家との縁組みはトントン拍子に進み、

何事もなく結納も済んだ七月の終わりに、私は顔も知らない男との祝言を挙げることになった。


母が先方に何やら文句をつけたせいなのか何なのかわからないが、私との縁組みが正式に決まった後、伊羽青文は内外に囲っていたという妾に一人残らず暇を出して綺麗サッパリ独り身になっていた。

周囲からは、いい加減に妻を娶って身を固める気になった、という解釈をされる行動だが、

これまで色狂いとまで言われるほど女遊びが激しかった人間が、パタリと手のひらを返すようにその女関係を清算したというのは、私には意味不明で、不気味だった。


私自身がそこまで想いを寄せられているというのならば喜ばしいことかもしれないが。

互いに顔も知らない。

武家の婚姻を絵に描いたような政略結婚だ。



雨宮家の庭に奇妙な投げ文があったのは、祝言を明日に控えた前日のことだった。

文は私と仲の良い女中が見つけて、真っ直ぐ私の所に持ってきたので、他にその存在を知る者はいなかった。



文には、


『雨宮の失脚の真相を知りたくば、本日七ツ半、町外れのススキ野に亜鳥殿一人で参られたし』


と名指しで私の名が記してあった。



すぐに兄に知らせようかと思ったが、そうすれば祝言を明日に控えたこのような大事な時に、女が一人で怪しげな文に従ってそのような場所に行くなど言語道断と言われるに違いなかった。

その五年前の失脚事件を廻って因縁のある相手に嫁ぐからこそ、私にとっては非常に興味のある話だった。


怪しすぎる文だと思いはしたものの、


私は結局その文の内容については誰にも言わず、夕刻にコッソリ屋敷を抜け出して、

指定された町外れのススキ野に向かった。
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