金魚玉の壊しかた
祝言は夜。
とは言え──真夏に婚儀など執り行うものではないな。

私は着込んだ花嫁装束にウンザリした。

暑くて死にそうだ……!

それでも真昼のうだるような暑さは去り、涼しい夜風が吹き始めた頃に、
白無垢の上に羽織った、金糸銀糸の模様が織り込まれた打掛の裾をひいて、
私は伊羽家の祝言の席に着いた。

さすがに主席家老の邸宅だけあって、雨宮家を凌ぐ広大な敷地の屋敷だった。

それにしても……借金まみれとなった雨宮家が、私の輿入れによくあれだけの荷物を揃えられたものだと、私は伊羽邸へと向かう行列を思い出してあきれた。
私が羽織っているこの打掛も、家老の家柄に相応しい見事なもので、

没落したとは言え、そこは家老家としての意地と見栄ということなのだろうか。


祝言の席にはまだ、得体が知れないと噂の婿殿の姿はない。


諸君らの時代の、チャペルで行う挙式では花婿が花嫁を待つ形だが、我々の嫁入りの場合では嫁ぎ先の婿のほうが遅れて着坐するものなので、こうして花嫁の私は先に席に着いて待つ形になる。

くれぐれも、妙な気は起こさぬよう、
父上の仇などとろうとは考えるなと、
雨宮の屋敷を出る前に親戚中から念を押された。

考えてみれば、本気で命を狙われるかもしれない相手を迎え入れるとは、伊羽青文という男もいい度胸だ。

さて、年中覆面などしているという御家老は、この祝言の席にいったいどのような姿で現れるのやら。


私はちょっとだけ面白くなった。


父が死ぬ間際まで憎んだ政敵というのが、どんな男なのか見極めてやろうと思った。

良家の箱入り娘らしく、淑やかに膝元に視線を落として俯き加減で待ち構えること──どのくらい経っただろうか。




す、す──と、衣擦れの音がして




隣に誰かが座る気配がした。
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