金魚玉の壊しかた
「世間では、伊羽青文が顔を隠しているのは、疱瘡の痕だとか火傷の痕だとか……顔面が醜く崩れているためだと言われているぞ」
手を引かれて歩きながら、私は母が以前この縁組みの反対の理由の一つとして挙げた噂話と、実際の彼の顔とを頭の中で比べてみて、少しだけ笑った。
まさか異人の血を引く異国の風貌を隠すためだとは、この時代の人間にはまず思いつけないことだろう。
「ああ、家人たちもそのように考えている。そちらのほうが都合が良い」
「本当に、家の者は誰一人知らないのか?」
「……いや。宮川中という私の部下は知っている。遊水との入れ替わりのために色々手伝わせているしな。それと──」
笑ったのか、覆面の下から吐息の漏れる音がした。
「──さすがに、私と夜を共にした女たちの中には、この素顔のことを知っている者もいるが」
それは──
考えてみれば女遊びに慣れた遊水の話と見事に一致する、伊羽青文が内外に大勢囲っていたという妾の話を思い出した。
いくら身分が高い相手だからと言って、噂どおり恐ろしい面相の男ならば女としても好きこのんで一夜を共にしたがるとは思えなかったが、
覆面の下に世間の噂と正反対の、不思議な美貌が隠されていたのだとすれば話は別だ。
そう納得して、
「知っている者『も』いる?」
私は首を傾げた。
「全員ではなくて?」
彼の肩が揺れて、覆面の中から可笑しそうに笑っている気配がした。
「ふふ、亜鳥。女の中にはな、相手の顔が見えないほうが楽しめると言って、率先して目隠しをしたがる趣味の者もいるのだよ。
まあ、私とて毎回毎回そのような女の相手ばかりしているわけではないがな」
からかわれたのか、いたずらっぽい口調で紡がれた内容に私は思わず赤面した。
男を知らない私には理解不能だったが、そういうものなのか?
「そ、その女たちからあなたの素顔のことが漏れる心配は……」
私は平静を装おうと努力しつつ質問した。
「そこはうまく言い含めてある……ものは言いようというやつだな」
やっぱり笑いを帯びたいたずらっぽい声がそう答え、
「それに女の口から素性が漏れて身が破滅するのならば、私はそれでも構わないと思っている」
彼はそんなことを言った。
手を引かれて歩きながら、私は母が以前この縁組みの反対の理由の一つとして挙げた噂話と、実際の彼の顔とを頭の中で比べてみて、少しだけ笑った。
まさか異人の血を引く異国の風貌を隠すためだとは、この時代の人間にはまず思いつけないことだろう。
「ああ、家人たちもそのように考えている。そちらのほうが都合が良い」
「本当に、家の者は誰一人知らないのか?」
「……いや。宮川中という私の部下は知っている。遊水との入れ替わりのために色々手伝わせているしな。それと──」
笑ったのか、覆面の下から吐息の漏れる音がした。
「──さすがに、私と夜を共にした女たちの中には、この素顔のことを知っている者もいるが」
それは──
考えてみれば女遊びに慣れた遊水の話と見事に一致する、伊羽青文が内外に大勢囲っていたという妾の話を思い出した。
いくら身分が高い相手だからと言って、噂どおり恐ろしい面相の男ならば女としても好きこのんで一夜を共にしたがるとは思えなかったが、
覆面の下に世間の噂と正反対の、不思議な美貌が隠されていたのだとすれば話は別だ。
そう納得して、
「知っている者『も』いる?」
私は首を傾げた。
「全員ではなくて?」
彼の肩が揺れて、覆面の中から可笑しそうに笑っている気配がした。
「ふふ、亜鳥。女の中にはな、相手の顔が見えないほうが楽しめると言って、率先して目隠しをしたがる趣味の者もいるのだよ。
まあ、私とて毎回毎回そのような女の相手ばかりしているわけではないがな」
からかわれたのか、いたずらっぽい口調で紡がれた内容に私は思わず赤面した。
男を知らない私には理解不能だったが、そういうものなのか?
「そ、その女たちからあなたの素顔のことが漏れる心配は……」
私は平静を装おうと努力しつつ質問した。
「そこはうまく言い含めてある……ものは言いようというやつだな」
やっぱり笑いを帯びたいたずらっぽい声がそう答え、
「それに女の口から素性が漏れて身が破滅するのならば、私はそれでも構わないと思っている」
彼はそんなことを言った。