金魚玉の壊しかた
「その妾に……急に暇を与えたのは何故だ?」

私を妻に迎えるためだろうかと、何も知らない私は都合の良い解釈をしてどきどきしながらそう尋ねて、

青文からは、私が期待した甘い答えは返ってこなかった。

彼はただ、

「すぐにわかる」

と、硬い声音で言って暗い敷地内の一郭に向かって歩き続けた。



重苦しく落ちてきた沈黙の正体が何なのかわからず怖くて、私はこの空気を紛らわせようと話題を探した。

幸い、聞きたいことは山のようにあった。

「昨日の動きは──棒術ではなく、槍術のものだったのだな」

伊羽青文が無想流槍術の免許皆伝者だという話は私も知っていた。

「昨日は満足に礼も言えなかったが……あなたが来てくれて助かった。ありがとう」

「たまたま通りかかっただけだ」と、彼はそっけなく言った。


私が、彼に好意を寄せていることを伝える発言をすればするほどに、彼は冷たく頑なな態度になり、沈んだ空気が流れてくるように思えた。


「昨日も気になったのだが……どうして、あなたがあの場所に現れたのか……その、聞いても、いいのかな?」

「ああ、そのことなら──」

覆面の首が動いて、屋敷の敷地を見回すようにした。

「この屋敷は、元々数代前の殿様の別宅でな。当時の伊羽家当主が賜ったものらしいが、別宅だった頃の名残で敵に攻められた際の脱出経路がある。
敷地内の涸れ井戸と、町の外にある涸れ井戸が地下通路で繋がっているのだ」


涸れ井戸──?


「まさか、ススキ野の涸れ井戸の話は──」
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