金魚玉の壊しかた
初めて立ち入る慣れない屋敷の敷地内、しかもこんな夜の闇の中だ。
上ってきた月が辺りを照らし始めてはいたものの、灯りも持たずに手を引かれてどこをどう歩いたものやら……
私には敷地のどの辺りにいるのか、全くわからなくなっていたが、
彼に導かれて連れて来られたのは、暗闇に佇む蔵の前だった。
「ここが、何なのだ?」
夜空を背に、重々しくそびえる建物を前にして、
何となく、寒気がした。
「この中に、見せるものがある」
そう言って、青文は蔵の扉を開け、中に入ったすぐ脇に置かれていた蝋燭に明かりを灯して、蔵の奥へと歩いて行った。
重い空気が更に濃密さを増したような息苦しさを覚えながら、私は後に続いて──
「私の母はな、私を産んですぐに、父にこの屋敷を追い出された。父は母の容姿を色濃く引き継いだ私を、武家に置いては手に余ると判断したのだろうな。
それから見知らぬ異国の地を、幼い私を連れて彷徨い──母は結局、体を壊して病で死んだ。だから私は、母と私を捨てた父をずっと恨み、憎んできた」
彼はそんな話をしながら歩みを進め、やがて蔵の奥で立ち止まって、
顔を覆う覆面頭巾を剥ぎ取った。
灯火の中に、再び美しい横顔をさらして、
彼はじっと、足元を見下ろした。
蔵の床に、観音開きの地下への扉が取り付けられていた。
「自らの意志で盗賊に身を落とした後も、母は父のせいで死んだのだ、もしも父が母を捨てさえしなければ、母が病で死ぬこともなかったのだ、父が母を殺したも同然だと、そう思って恨み続けてきた」
床にある扉を昏い瞳で睨んだまま、
長屋で交わした遊水との会話の中で、ただの一度も口に上ることの無かった父親の話題を、彼はそのように憎悪を滲ませて語り、
地下へと続くその扉を開けた。
上ってきた月が辺りを照らし始めてはいたものの、灯りも持たずに手を引かれてどこをどう歩いたものやら……
私には敷地のどの辺りにいるのか、全くわからなくなっていたが、
彼に導かれて連れて来られたのは、暗闇に佇む蔵の前だった。
「ここが、何なのだ?」
夜空を背に、重々しくそびえる建物を前にして、
何となく、寒気がした。
「この中に、見せるものがある」
そう言って、青文は蔵の扉を開け、中に入ったすぐ脇に置かれていた蝋燭に明かりを灯して、蔵の奥へと歩いて行った。
重い空気が更に濃密さを増したような息苦しさを覚えながら、私は後に続いて──
「私の母はな、私を産んですぐに、父にこの屋敷を追い出された。父は母の容姿を色濃く引き継いだ私を、武家に置いては手に余ると判断したのだろうな。
それから見知らぬ異国の地を、幼い私を連れて彷徨い──母は結局、体を壊して病で死んだ。だから私は、母と私を捨てた父をずっと恨み、憎んできた」
彼はそんな話をしながら歩みを進め、やがて蔵の奥で立ち止まって、
顔を覆う覆面頭巾を剥ぎ取った。
灯火の中に、再び美しい横顔をさらして、
彼はじっと、足元を見下ろした。
蔵の床に、観音開きの地下への扉が取り付けられていた。
「自らの意志で盗賊に身を落とした後も、母は父のせいで死んだのだ、もしも父が母を捨てさえしなければ、母が病で死ぬこともなかったのだ、父が母を殺したも同然だと、そう思って恨み続けてきた」
床にある扉を昏い瞳で睨んだまま、
長屋で交わした遊水との会話の中で、ただの一度も口に上ることの無かった父親の話題を、彼はそのように憎悪を滲ませて語り、
地下へと続くその扉を開けた。