金魚玉の壊しかた
「母から聞かされていた自分の生まれにも、この家にも、何の未練もないつもりだったが……」


階段を降りながら、彼は語り続けた。


「十二になったあの年、私は偶然、盗賊の稼ぎのために立ち寄ったこの町で……興味に駆られたのか、心のどこかでいつも気になっていた自分の生家の前に立ってしまった。

それが地獄の始まりになるとは思いもせずにな」


自嘲を孕んだ、皮肉げな声だった。


「突然、己のような子供が訪ねて行ったところで、母や私のことを伊羽家の者が覚えていようがいまいが、まず追い返されるに決まっている。
私はそう思っていた。

ところが、予想に反して──私のこの容姿を見たこの家の者たちは、私をその場で伊羽家に迎え入れたのだ」


階段が終わった。

立ち止まっていた青文の横に並んだ私に、


「亜鳥は、伊羽青文という人間の存在を初めて知ったのはいつだ?」


蝋燭をかかげてそこにあるものを見せながら、彼はそんな問いを発してきた。


「それは……あなたが十五の齢で家中を改易の危機から救い、天才だと騒がれた──十年前だ」


答えながら、目の前を見る。
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