問題アリ(オカルトファンタジー)
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その町外れの一軒家は、殆ど人が通らない場所に建っている。


町の誰もがそこに住んでいる人間など知らず、少年が住んでいるみたいだという漠然とした噂だけが町に飛び交っていた。


その少年が何十年前も少年の姿だという意味不明な噂もあったが、確認されることはなかった。


存在しているはずなのに、存在感が希薄なその一軒家はそこにあると知っているはずなのに、形を思い出せない。形を思い出せるのに、場所が思い出せない。家賃も水道代もガス代も、全てが『誰かがもらっているだろう』と言う認識で、結局誰も貰ってなどない。


そんな、人々の記憶に何らかの障害をもたらす、その障害さえも人々は気づかないという変わった場所だった。


そこには大きな柿の木が一つあり、美味しそうな実を沢山つけている。


故にその柿に興味を持つ子供たちは後を絶たないのだが、その屋敷に行った子供たちは両手に柿を抱えながら口を揃えて言うのだ。



『男の子が取ってくれた』



と。


だが、その柿を食べた後にはもう、その屋敷に行ったことも柿を食べたことも忘れているのだった。


そして今日もまた一人の少年がその不思議な屋敷の中で植えられている柿の木を見上げている。


歳は十四歳ほどだろうか、特に塀に登って取ろうとはしないものの、先ほどからずっと、その木を眺めていた。


ふと庭に降り立ったチェスはそろそろ誰かが柿を貰いに来る頃だと先ほど取っておいた山盛りの柿を庭にあるテーブルに籠ごと置いた。


そして、ふと人の気配に気づいて、いや、多分目に留まったんだろう。


その白い短い髪が、風に揺れていた所為で。





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