君の瞳に映る色
思わず振り返った棗の目の前が
真紅に染まる。
小さい悲鳴を上げて
棗は立ち上がった。
後ろで椅子ががたんと倒れる。

「…驚かせてしまったかな」

黒に近いこげ茶色の癖のない髪、
前髪は少し長めで
斜めに流されている。
髪と同じ黒に近い茶色の瞳、
少し釣り上がった切れ長の目は
どこか冷たい印象だった。
黒のスーツを着た手には
バラの花束を抱えている。

棗は目の前の男を見つめた。
玲ではない…。
でも確かに今も見える色は
間違いなく玲の持つ
闇の色だった。

どうぞ、とバラを手渡されて
棗は我に返る。
礼を言うと男は、

「僕らの出会いの記念に」

と言った。
ボーイが倒れた椅子を戻し、
花束を置く台を持ってくる。
花を預けて顔を上げると
男はじっと棗のことを見ていた。
頭の上から足の先まで
なめるように見られて
棗は少し不快感を覚えた。

視線を無視して先に席に着くと
男も向かいの席に腰を下ろした。

「東條櫂斗です。
よろしく、棗ちゃん」

名乗る前に名前で呼ばれた事に
さらに苛立ったが、
何とか冷静に
よろしくお願いしますと
頭を下げた。




< 105 / 352 >

この作品をシェア

pagetop