君の瞳に映る色
身体を這う櫂斗の手に棗の全身が
総毛立つ。
気持ち悪さに棗は顔を歪めた。

皮肉で玲に言われた言葉を
ふと思い出す。
―婚約者くんの時には吐くなよ

「いやぁぁっ!」

ドレスを脱がされそうになり
棗は叫んだ。


その時、ベッドサイドにある
電話が鳴った。

チラリと電話に視線を
向けただけで櫂斗は再び
その行為を続けようとする。
電話に出てください、思わず棗は
訴えた。

運転手が戻らないのを
心配しているのかも、慌てて棗は
言葉を繋ぐ。
それでもまだ櫂斗は動く
気配がない。

「その間に、シャワーを
浴びさせてください」

棗の言葉に櫂斗はふっと笑いを
漏らした。
どうぞ、と言って棗の上から
ようやくおりる。

電話が切れなかったことに
感謝しながら棗はバスルームへと
走った。

ドアを閉めて急いで鍵を掛けた。
途端に手や足がガクガク震える。

こんなところに逃げても無駄だ。
でもあのままあの男のものに
なるなんて耐えられない。
視界が歪むのを感じて棗は
唇を噛み締めた。







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