君の瞳に映る色
ふらつく足で洗面台に
寄りかかると途端に
気分の悪さが襲ってくる。
苦しさと悔しさで堪えたはずの
涙が頬を伝った。

吐いてしまうと気分が楽になる分
頭がはっきりしてきた。
涙を拭って棗は顔を上げる。

バスルームは屋敷のものより
ずっと広く、高層階だからか
ガラス張りで外の夜景が見えた。
シャワーブースもあったがそこに
素直に向かう気にもなれない。

絶望感が心を占めていく。
逃げ場のない空間。
棗はその場に呆然と立ち尽くす。

ノックする音がして
棗はドアを振り返った。
思わずドアから後ずさる。
再び聞こえるノックの音が自分の
近くで聞こえて棗は後ろを向く。

「きゃあ!」

窓の外に玲の姿を見つけて
思わず悲鳴を上げた。

玲は指を口に当てると
窓を開けろと身振りで示す。
言われるままに棗は窓を開けた。
外の強い風が部屋の中へと
入り込む。
玲は窓の外の張り出した
コンクリートの部分に
腰掛けていた。

呆気にとられている棗に玲は、
「助けてやろうか?」
と、言って手を差し出した。
棗は目を丸くして玲を見る。

「棗ちゃん」

ドアの向こうで
自分を呼ぶ櫂斗の声がした。
棗は玲と差し出された手を交互に
見つめる。
玲の手に自分の手を重ねると
玲は強く握り返した。

そのまま抱きかかえられるように
外に飛び出し棗は息をのんだ。






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