紅芳記

殿も、まんの無邪気な笑顔を見て、幾分落ち着かれたように思います。

「お殿様は、今度(コタビ)は大分落ち着いてあらせられますね。」

ユキはまんと遊ぶ殿を見ながら、不意にそのような事を申しました。

「これ、ユキ!
余計な事を申すな。」

「ユキ、そうなのか?」

「ええ、奥方様。
奥方様が姫様をお産み遊ばした時など、殿をお宥めするのがそれはもう大変でございました。
それはそれは不安げで、お怒りになって。
御家来衆もほとほと手を焼かれましたとか。」

「ユキ!」

殿はこれ以上申すな、とユキをひと睨みいたしますが、私もユキもニコニコ顔でございました。

「殿、私は嬉しゅうございます。
それ程までにご心配を頂けるなんて。」

「…。」

殿はさっと顔を背けてしまわれました。

その時、ちらりと見えた殿のお顔が真っ赤なタコのようで、私は気付かれない程度に笑ってしまいました。


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