紅芳記
「いや、やっと世継ぎも産まれ、これで真田は安泰よの。」
大殿は源之助をよしよし、とあやしながら仰せになりました。
「ええ、本当に。
されど、源三郎の方が先だったのは以外だわ。」
御前様もまんの頬に優しく手を当て、大殿にお返事なさいます。
「そうさのう。
源次郎の方が先とばかり思うておったが。」
「父上、それは如何なる故にて?」
殿は少しばかりムッとされました。
大殿はそんな殿をお笑いになり、
「まあ、後で源次郎に会えばわかろうて。」
と言って更に大きな声でわはは、と笑われました。
きっと利世殿と仲睦まじくお過ごしなのがお二人の耳にも届いているのでしょう。
この時の私はそのように考えておりました。