紅芳記
「直ぐに…殿に使いを。」
出産を終えて息も絶え絶えに、近くにいた奈多に申し付けました。
奈多は、すぐに、と慌てて城の御殿にかけて行きます。
私の二人目の若、殿には三人目の男の子です。
きっと、源四郎と共に源之助をよく補佐してくれるとこでしょう。
産まれたばかりの我が子に向かって、兄上を助けられる子に育つように語りかけます。
それから、御湯殿の儀や読書鳴弦の儀などの儀式を済ませ、日が暮れる頃にようやく休む事が出来ました。
数日して産小屋から出てからは、殿の名代として頼康から祝いの言葉を聞き、お忙しい中で殿が見繕って下さった山ほどの贈り物に呆れながらもありがたく頂きました。
その夜、私の許に源之助が訪ねて来ました。
源之助は既に五つになっており、真田家の智略を思わせる聡い子に育っておりました。
「母上様、わしの弟が産まれたのに、何故父上はいらっしゃらないのですか?」
源之助は瞳をうるうると潤ませて話します。
「だって!
まさ姫のときはわしは覚えていないけれど、源四郎のときは父上は必死で母上のご無事を祈っていたのに!
なんで父上はいないのですか?
父上は母上が嫌いになってしまったの?」
源之助にそう言われて、私も京のあのお方のことが一瞬だけ心を過ぎりましたが、すぐにそれを押し込めて源之助に語りかけました。
「よいか、源之助。
父上は天下のためのお勤めを為さられておるのじゃ。
母はそんな父上を心から尊敬しておる。
若が生まれる時には、きっと父上もここに居たかった筈じゃ。
そのような事を思うてはならぬぞ、源之助もお父上を良く良く助けられる子になるようにな。」
源之助に語りかけると同時に、私自身にもこの事を心に言い聞かせました。