i want,
「…田口」
そう呟くと、田口は階段を登ってきた。あたしの横に立ち、ヒカルの家の玄関を目にする。
下にいた時にはわからなかったけど、夏の同窓会で会った時より随分背が伸びていた。
雰囲気も何だか違って、あたしの知っている田口じゃない気がする。
「留守だよ。鍵かかってるだろ?」
「留守って…」
田口が流れる様にあたしの方を見た。視線がヒカルに似ていて、不覚にも心臓が鳴った。
そこで、どこからか声が聞こえた。おそらくこの団地に住む人の声だろう。
「…来れば」
「え?」
「俺んち、隣だから」
顎で指した先に向かって、田口は既に歩き出していた。戸惑ったが、あたしも足を進める。
何も言わなかったが、ヒカルのことを話してくれるのだろうと思った。狭い田舎村、若い男女が一目のつく場所で話し込んでいて、いい噂がたつわけがない。場所を変えようという意味なのだ。
相変わらず、田口は周りが見えていると思った。
生意気な雰囲気は、もう纏っていなかった。