i want,


……………


成人式は、風の強い日だった。

慣れない振り袖が体に重い。
それでもあたしは、背筋を伸ばしていようと思っていた。


さとが突然いなくなって、しばらくは何もできなかった。

綾の家に何日も泊まり、慰めるわけでもなくただ一緒に眠った。

綾は夢の中で、何度もさとを呼んだ。
あたしはその時まで、綾がさとのことを「覚」と呼ぶことを知らなかった。

そんな些細なことでさえ、あたしの胸を締め付ける。

悲しいとか辛いとか、そんな感情ではなかった。


ずっと泣いていた綾だったが、今日だけは違った。

しゃんと背筋を伸ばし、綺麗な桃色の振り袖を着ている。

少し痩せた頬が、綾に大人の哀愁を帯びさせていた。

「神ちゃんと選んだ振り袖じゃけぇ。今日はしゃんとする」

そう言う綾は、本当に綺麗だった。


涙が出る程、綺麗だった。












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