i want,


……………

小学生の修学旅行にしては、いいホテルなんじゃないかなと思った。

ご飯も美味しかったし、何よりあたしが気に入ったのは、広い温泉。

温泉独特の香りと温かいお湯が、疲れた体と心をほぐしてくれる。
そこであたしは、自分が思うよりも疲れていることに気付いた。

クラスごとにお風呂の時間は割り振られていたけど、あたしは誤魔化して二回も入ってしまった。



…二回目のお風呂から帰って来たら、部屋には誰もいなかった。

なんとなく予想はできてた。だから特に何を思うわけでもなく、お風呂セットを鞄に突っ込む。


二回入ったのは、温泉が気持ち良かったからというだけじゃない。

みんながいる部屋にいる自分に、酷く違和感を覚えたから。

そんな自分の気持ちを洗い流すために、あたしは笑い声の満ちるこの部屋を出ていったのだ。


しんと静まり返った和室。

あの笑い声は、もうどこにもない。

壁に背をつけたまま、ずるずると床に座る。



…あたし、何でここにいるんだろう。



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