i want,
「あら、いらっしゃったんですか」
突然襖が開いたと思ったら、着物を着た仲居さん達がどやどやと入ってきた。
あたしは驚いて立ち上がる。
「あ、くつろいでて下さいね。すみませんねぇ、お布団だけ敷かせてもらってもよろしいでしょうかねぇ?」
「あ、はい、どうぞ」
布団を取りだし、彼女達はてきぱきと白いそれを敷き始める。
その機敏な動きを、あたしはただ呆然と立ち尽くしたまま見つめていた。
「修学旅行でしたよねぇ?」
「あ、はい…」
「いいですねぇ。楽しいでしょう。お土産は買われましたか?」
「いえ、まだ…でも、お母さんに、もみじ饅頭頼まれました」
「そうですかぁ。うちの売店にもあるので、良かったら見てみて下さいね」
それだけ話したら、もう布団は綺麗に畳に並んでいた。
彼女達はあたしに笑顔でお辞儀をして、部屋を出ていく。
パタパタと、廊下に響く音が遠ざかった。
一気に駆け抜けた嵐の様。
それはあたしの心に、小さな風穴を空けた。