i want,
「修学旅行の夜に遊ばんでどうするんじゃ。行こや」
まるで犬か何かを呼ぶ様に軽く手招きをして、垣枝は背を向けた。
迷ってる暇はない。あたしは急いで立ち上がってその背中を追いかける。
「どこ行くけ」
「ど、どこでもっ」
「なんじゃー。自己がないのぅ」
「うるさいなぁ」、いつもの様な軽口を叩きながら、垣枝が振り向かないことを願った。
さっきより一層、泣きたくなってたから。
今垣枝の顔を見たら、きっと泣いてしまう。
垣枝の優しさに泣きたくなったわけじゃなかった。
垣枝がいることに、泣きたくなっただけで。
優しさが嬉しかったんじゃなかった。
垣枝の背中が嬉しかったんだ。
…乾いていない髪の毛が微かに滲んで、あたしはばれない様に思い切り目元を拭う。
そのままあたし達は、修学旅行の夜に足を踏み出した。