i want,


「修学旅行の夜に遊ばんでどうするんじゃ。行こや」


まるで犬か何かを呼ぶ様に軽く手招きをして、垣枝は背を向けた。

迷ってる暇はない。あたしは急いで立ち上がってその背中を追いかける。


「どこ行くけ」
「ど、どこでもっ」
「なんじゃー。自己がないのぅ」

「うるさいなぁ」、いつもの様な軽口を叩きながら、垣枝が振り向かないことを願った。

さっきより一層、泣きたくなってたから。

今垣枝の顔を見たら、きっと泣いてしまう。



垣枝の優しさに泣きたくなったわけじゃなかった。

垣枝がいることに、泣きたくなっただけで。


優しさが嬉しかったんじゃなかった。

垣枝の背中が嬉しかったんだ。



…乾いていない髪の毛が微かに滲んで、あたしはばれない様に思い切り目元を拭う。


そのままあたし達は、修学旅行の夜に足を踏み出した。










< 86 / 437 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop