i want,


……………

お風呂上がりのさっぱりした肌に、潮の香りがまとわりつく。

でもそれは、不思議と嫌なものじゃなかった。

防波堤から臨む海は、黒く白くうねっている。

時たまテトラポットに打ち寄せる波が、時間差と共に耳に心地よく響いていた。


「今何時?」
「知らんわ。時計持っちょらんもん」
「ヤバくない?点呼間に合う?」
「大丈夫じゃろ。俺がおらんかったら秀則がどうにかしてくれるわ」

あたしはどうするんだよ。そう思ったけど、敢えて口には出さなかった。

そのせいでこの時間がなくなるのは、嫌だったから。

「いいね、海」
「海なんか地元によぉけあるじゃあ」
「なんか違うじゃん。瀬戸内海と日本海の違い?」
「わからんわ、そんなん」

ははっと垣枝が笑う。
笑顔は、夜の闇に負けてあまり見えなかった。

堤防に二人、背中をもたれる。

ひんやり冷たいコンクリートが背中を伝って体内を冷やす。
その感覚が、とても気持ちいい。


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