i want,


「いる?」
「なん?」
「しかのうんこ」
「はぁ!?」
「…って名前のチョコレート」

んっと垣枝が差し出した紙の袋には、確かに鹿の糞に似た黒い粒が沢山あって。
でも風と共に香ったのは、甘いチョコレートの匂いだった。

「なにそれ、そんなん買ったん?」
「売店で男子みんな買いよったわ。美味いよ」
「えー…なんか見た目、微妙じゃあ」

「まぁ食ってみぃや」、そう言われて、あたしは渋々一粒もらった。

「あ…甘い」
「じゃろ?見た目だけっちゃ、うんこみたいなんわ」
「もぉ、人が食事中にそんな言葉連呼せんでぇや」
「ははっ、そうけそうけ」

笑いながら、垣枝もチョコレートを口に投げ入れる。

しょっぱい香りと甘い香り。
アンバランスだけど、とても居心地がいい。

「ふふっ」
「なんけ、気持ちわりぃ」
「なによ。なんかね、楽しいなぁって」

馬鹿みたいなお菓子と、夜の海。
特に何が楽しいってわけじゃないのに、あたしの心は弾んでいた。

もしかしたら、広島に来て一番。

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