i want,
「こんなんが楽しいんけ」
「うん、楽しい」
「修学旅行じゃぞ?もっと楽しいことよぅけあるじゃろうが」
その言葉に、あたしは上手く返せない。
垣枝も何かを感じ取ったのか、口を開かなかった。
気、使って欲しくないのに。
「お前、ハブられとるんやて?」
「え?」
「神野が言いよった。じゃけぇ旅行中、女子らぁとおらんと神野らぁとおるんじゃろ」
「…別にハブられとるとかないし。微妙に…気まずいだけじゃもん」
「気まずいって?」、垣枝が聞いたけど、あたしは俯いて答えなかった。
そんなあたしを垣枝はしばらく見ていたが、やがて視線を前に戻した。
何か言って欲しい。
でも本当は、何も言わないで欲しい。
打ち寄せる波の音だけ、二人の耳に響いてる。
「…帰るか」
垣枝が呟いた。
あたしは顔を上げる。
垣枝の横顔。
吐いた息が白く浮かぶ。
真っ暗な空気。
色のあるのは吐息だけ。
歩き出した垣枝の背中が、何故だかとても遠くに思えて。
それがとても哀しくて。