ロ包 ロ孝
 ヴァシーラに現地集合する事にした俺達は、各々店を目指している。

「里美からメールだ。もう着いたみたいだな」

 先に入店して待っているという。店長が代わったと知ったらさぞ残念がるだろう。

「おーい、栗原ぁ!」

 彼は駅から道なりに来たようで、俺と逆の道を歩いて来た。

「あれ、坂本さん。そっちからも来れるんですか?」

「お前知らないのか? この道、駅から真っ直ぐ来るより断然早いんだぞ?」

「ほぇぇ、全っ然知らなかったっすよ」

「お前には探求心が欠けてるな。道はひとつだけに非(アラ)ずだよ」

 他愛も無い話をしながら、あの頃のようにドアを押し開けた。

  チリンチリンッ

 ドアに下がったベルが鳴り、入り口が開いた先……。

 受付のカウンターには辞めたはずの徳田が、あの頃と変わりなく、満面の笑みを湛えて立っていたのだ。

「お久し振りです、坂本さん! 聞きましたよ? ご結婚おめでとうございます」

「あれあれ? 坂本さん!」

 栗原が俺の脇腹を肘で小突きながら囁く。俺の脳裏に、徳田の消息を尋ねていた時「こちらの話です」と口籠もった後藤店長の表情がまざまざと浮かんで来た。

そう、あれはまさしく「失敗した」という顔だった。

「あ痛、イタタタタッ……」

 朝と同じ焦燥感を更に激しく感じ、俺は堪らず背中を押さえて座り込んだ。

『栗原、お前は喋るなっ!』

 屈み込んで俺の様子を窺う彼に、伝達の【闘】(トウ)で手短に伝える。

「どうかなさいましたか? お加減でも?」

 カウンター越しに徳田の発した言葉が、妙に空々しく響く。


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