ロ包 ロ孝
「いえ、腹が減ると胃酸過多がひどくて……はは。
 ところで店長。我々が来なくなってからはどうされてたんですか?」

 一瞬、間が空いたが、徳田は事もなげにこう言ったのだ。

「ええ、ずっとここの店長ですよ。
 坂本さんと違ってこの店ぐらいしか連れ添う相手が居なくて、ははは」

 ……!……

 この時。その場に流れていたBGMも、受け付けを待っている若者の笑い声も、全ての音という音が、なりを潜めて静まり返った。

笑顔を貼り付けたままの徳田。

得体の知れない物を感じたのか、困惑の色を隠せない栗原。

あの頃、ここで過ごした思い出のシーンが目まぐるしく脳裏を駆け巡る。

徳田が嘘を吐いたという事は即ち、今迄俺達を偽ってきた事の証明になる。初めてここに訪れたのは栗原の案内だった。そして数回利用して、俺達の拠点にすると決めた後に徳田が店長として赴任して来た。

今から考えれば、あまりにタイミングが良過ぎるではないか。

それからの日々、つまり徳田が店長であると偽っている間、裏蠢声操躯法の打ち合わせや俺達に取って重要な物事の話し合いは全て、ここ『ヴァシーラ』で行っていた。

俺達を欺く事で利を得る者、それは……

「やつらは、音力は全部知っていたんだ。一から十まで全て!」

 つい先日打ち消したばかりの音力に対する不信感が現実となり、津波のように押し寄せて来た。

しかし……彼が音力への内通者だったとして、先日俺達が来た時に居なかったのはどうしてだ?

それに何故、今日は何喰わぬ顔をしてここに居るんだ?


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