ロ包 ロ孝
 彼の国の盗聴や監視の可能性から、船内では一切オペレーションについての発言が禁じられていた。勿論筆談もである。少しでも怪しいと感付かれようものなら、今までしてきた俺達の努力は水泡と帰してしまうからだ。

少し寝転がっていた為に幾らか気分が良くなった俺は、皆の様子を見ようと再びデッキに上がって行った。

「おい大丈夫か? 背中でもさすってやろうか」

 岡崎は手摺にぶら下がるようにして、海に身を乗り出している。

「はぉうっ、うえっ。坂本さん、もう吐く物が無いです」

「自分みたいに水を飲めばいいんだよ……おっ……えろ、えろろろぉお」

「達っつぁん! 吐くんなら海に吐け! 床が汚れるだ……ハゥッ!」

 渡辺の飛ばした吐瀉物を見て、貰いゲロをしてしまった俺は、ヨロヨロと手摺にもたれ掛かった。

「はぁぁ」

 ふと水平線の先に目をやると、錆び付いたデッキと妙にマッチする夕焼けが赤々と燃えている。

それは血の色にも似て、俺達の行く末を暗示しているかのようだった。


∴◇∴◇∴◇∴


 その日の深夜。彼の国に着いた俺達は、用意されていた車で宿舎に案内され、船酔いと旅の疲れであっという間に眠り込んでしまった。

そして翌朝、日の出と共に使者がやって来て、俺達は寝惚けマナコのまま準備に掛からねばならなかった。

「叩き起こされてすぐ作業ですよ? さすがにこれはきっついですよね」

 今回、一番船酔いに苦しめられていた岡崎が、早速こぼしている。

「なんだ。船で吐き足らなかったのか?」

「え? 今は何も吐いていませんが……」

「弱音を吐いてるじゃないか。はっはっはっ」

 マギー伸子のツアースタッフとして同行している俺達は、やったこともない舞台装置や照明、小道具や音響機材のセッティング等に追われている。


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