ロ包 ロ孝
 その優しい声音は紛れもなく里美のものだった。

『淳、私の愛しい人。そこから動かないで!』

「里美っ! どこだっ!」

 彼女は【闘】で話し掛けてきている。どこから俺を見ているんだ?

『淳、聞いて! 舞台装飾の佐藤さん達は、民間人だから危険が無いように保護しているわ?
 でもエージェント達を見逃す事は出来ない。助かりたかったら全力で逃げるのね』

 建物の中か、いや違う。庭か? その向こうに見える森の中からだろうか。

「居たっ、そこかっ!」

 遥か遠く、監視塔のような物からこちらを見ている里美らしき影を見付けた。

ここからでは表情を窺うことは出来ないが、彼女が発する【闘】は俺の胸をも震わせ、彼女の切ない気持ちをひしひしと伝えてくる。

『せっかく許して貰えたのに、あたしも馬鹿よね。
 淳にならこの命を捧げても良かったのに……』

「里美……。今からでも遅くない、だから……」

 その言葉を遮って里美は続けた。

『駄目よ、淳。あたしは貴方を2度も裏切ったのよ?
 あたしの脳には、この国への忠誠心がすり込まれている。
 心では全てを捨てて貴方について行きたくても、あたしの脳がそうさせてくれないの!』

 気のせいだろうか。しかし里美が涙を流している様子迄、手に取るように解った。

「里美、憐れな女。俺の最愛の小悪魔。……例え地獄に堕とされようとも、俺はお前と一緒に居たいんだ!」

『淳! 駄目。あたしは貴方と共に生きる資格が無いの。でも貴方は生き延びて! さようなら』

「さ、里美ぃっっ!!」

 彼女は部屋の奥へと姿を消した。もう俺の【闘】も届かない。


∴◇∴◇∴◇∴


  サトミィッッ……

「うわ、ひでぇ。ありゃ多分みんな死んでるな。ん? なんか聞こえたぞ」

 岡崎が壁と一緒に飛ばされた敵兵達を見遣って言った。


< 362 / 403 >

この作品をシェア

pagetop