ロ包 ロ孝
 瓦礫となった残骸からは、血に染まった手足が覗いている。

「坂本さんの声じゃなかったか?……いや、仕方無いよ。3倍【空陳】だったんだから」

「そうさ。俺達だって捕まったら、恐らく無事では帰れない。
 暗殺を企てたスパイとして、秘密裏に処刑されるのがオチだ」

 彼らは人を殺めてしまった事への正当性を模索している。

「そうだ、正当防衛だよ。とにかく、早くここから離れよう」

 渡辺達は海を目指して走り出した。

「先ずは一旦、中継地点の森まで急ぐんだ。みんなは来ているか?」

 宿舎から走り続けていた彼らは漸く点呼を取る。すると新派のメンバーがひとりも居ないのに気が付いた。

「おいっ! 関さん達は!」

「そう言えば……誰か知らないか?」

 みんなは顔を見合せ首を横に振る。

『達っつぁん。佐藤さん達は大丈夫だ。山本さん達は一足先に森へ向かった。
 後は自分達の安全を一番に考えろ』

「やっぱり坂本さんだった。どこだ?」


∴◇∴◇∴◇∴


 渡辺の金髪頭は遠くからでも良く解る。遥か遠くの草むらに居た彼に【闘】で話し掛けた。

里美と話した後に部屋へ取って返して持ち出した双眼鏡で覗くと、彼はまるで見当違いの方ばかりを探している。

「達っつぁん止まれ! そう、その位置から4時の方向だ。双眼鏡を使って建物の上を見ろ」

 振り返った渡辺はやっと宿舎の屋上に居る俺を見付けて手を振った。

『坂本さぁん! まだそんなとこに居るんですかっ! 敵に捕まっちまいますよ?』

 渡辺達が脱出した後、敵兵達は蜘蛛の子を散らすように宿舎を去って行ったきりで姿を見せない。

「敵は態勢を整える為に一旦撤退した。暫くは戻って来ないだろう」

 あの喧騒が嘘のように静まり返っている。それが却って不気味だった。


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