ロ包 ロ孝
 彼女の頬を伝う涙もその声も、切ない程に弱々しい。

「里美! 一緒に生きよう! 諦めるんじゃない!」

「うん、淳。……淳? 淳、どこなの? 顔を見せてっ!」

 虚空をまさぐる手は震え、焦点の定まらない目がうつろに泳いでいる。

「里美、俺はここだ。しっかりするんだ!」

「フフフ? こんな時にかくれんぼなんかして……ばかね。
 ねぇ淳。キスして?」

 俺は里美の髪を指で梳いてやり、冷たい頬に手を添えてその瞳を見詰めた。

少し色の薄い瞳に写った俺の顔は情けなく歪んでいる。

「里美、愛してる。愛してるよ」

「淳。あたしも愛してる。ん……んんっ…………」

 口付けると間もなく、俺の腕の中で彼女は力尽きた。

幸せだった頃の里美の声が、俺の頭の中でリフレインする。

「ふふふっ、淳ったら……」

「ねぇねぇ淳、ほら見てぇ!」

「淳、淳ってばぁ」

「淳ったらアタシの事好きねっ!」

 里美……。里美、俺の大好きな里美。何故俺を置いてきぼりにするんだ?

俺に愛想が尽きたのか?

俺にはお前が必要なのに……お前の事をこんなに愛しているのに……。

何故? 何故? 何故だ!

「里美、目を開けてくれ! 冗談だよって笑ってくれよぉお、里美ぃぃぃっ!」

 そうだ。全てはお前をスパイにしたこの国の奴らが悪いんだ。それさえ無ければ俺と2人、幸せに暮らしていけたのに。


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