君を愛す ただ君を……
「それって、越智君とは今日で最後になるってこと?」

あたしは越智君の腕にそっと触れた

「違う。俺が涼宮への気持ちを諦めないってだけの話さ」

「だって…お金が…」

「母親がくれたんだろ? ありがたく貰っておけよ」

「越智君、言っている意味がわからないよ。だって、あのお金を貰うってことは、今日限りで学校を退学して、越智君の前から姿を消さなくちゃいけないんだよ」

越智君がくすっと笑う

「律義に約束を守る必要はねえだろ。俺が親から姿を消せば、何の問題もねえんだし」

「え?」

あたしは越智君の言葉に、耳を疑った

聞き間違い?

親から姿を消すって言ったの?

「お…越智君? 何を言っているの?」

「俺、もうあの家には帰らねえ」

「は? ちょ…なんで? そんなことしたら、お母さんが心配するよ?」

「心配の意味が違うだろ。俺の身を案じるっていうより、どうせ後継者が居なくなるってくらいにしか思わねえんだし」

越智君があたしの手を握ったまま、ベッドへと近づいていく

越智君がまずベッドに座ると、あたしを膝の上に座らせた

「越智君…でも、家に帰らないのは良くないよ」

この態勢もあまり良くないと思うんだけど…ドキドキしちゃって、思考力が落ちちゃう

「涼宮に、帰れって言われても俺は帰らない。絶対にな」

越智君の声が低くなる

「どうして?」

「あの家に、愛想が尽きた。それが理由だよ」

「でも…」

「何度も俺は母親の我儘に、付き合ってきた。やりたいことも続けたいことも諦めてきた。だけど誰にだって、絶対に譲れない想いってのがあるだろ?」
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